【第90回】[新興アジア×経済成長]2022〜23年のアジア経済、中国は大幅減速だが、東南・南アジアは堅調

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

9月21日、アジア開発銀行(ADB)が最新の経済予想を発表した。前回の4月時点に比べて、新興アジア全体の経済成長率について2022年は5.2%から4.3%へと引き下げ、2023年は5.3%から4.9%と引き下げた。

ただ、よく見ていくと主な原因は中国の経済成長の減速によるところが大きい。一方で東南アジアは、4.9%から5.1%へと上方修正がされた。南アジアは7.0%から6.5%へと下方修正されたが、絶対値として成長率は高い水準だ。新興アジア全体の減速は一番大きな数字だけみれば、各メディアが報じたとおりだが、もう少し細かく実態を見ていく必要がある。

まず、中国の2022年の経済成長予想は5.0%から3.3%へと大幅な引き下げとなった。2023年は回復するが、4.8%から4.5%へと下方修正が施された。ゼロコロナ政策による上海ロックダウンなどの影響が、4月時点よりも想定以上の影響が出たと言える。

一方で、東南アジアについて2022年は4.9%から5.1%と上方修正、2023年は5.2%から5.0%へと小幅な下方修正にとどまり堅調だ。2023年の引き下げは、インフレの加速に対応するための金利の引き上げなどが大きな要因だ。

国別にみていくと、シンガポールは世界景気の影響を受けやすく、2022年は4.3%から3.7%へ、2023年は3.2%から3.0%へと引き下げられた。ただ、先進国水準であることを考えると、決して悪くはない水準だろう。

上方修正の幅が大きかったのは、フィリピンとインドネシアだ。2022年のフィリピンは6.0%から6.5%、2023年は6.3%から修正無しとなった。インドネシアの2022年は5.0%から5.4%、2023年は5.2%から5.0%へと小幅な引き下げにとどまった。

また、ベトナムも好調で、2022年の6.5%、2023年の6.7%から修正無しとなった。下方修正が一切施されなかったのはベトナムだけだ。その他の東南アジア諸国もクーデターによって、概ね好調ないし堅調だと言える。

また、南アジアは、これからの成長を注目しておきたい。インドの2022年は7.5%から7.0%、2023年は8.0%から7.2%へと下方修正が加えられたものの、14億人規模の国が7%台での成長を続けることは驚異的だ。1億7千万人のバングラデシュも6〜7%台と高水準であり、1億3千万人のパキスタンも2022年は6%、2023年は3.5%と堅調と言える。

今後、東南アジア経済との関係が深まる地域であり、高成長を背景に新たなビジネス機会も生まれていきそうだ。


新興アジア主要国の経済成長(アジア開発銀行による予想値)

出所)GDP Growth in Asia and the Pacific, Asian Development Outlook (ADO), September 2022より筆者作成 ※注:アジア開発銀行の予想はコーカサス地方なども含む。上図は一部抜粋。


*2022年9月27日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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