【第93回】[マレーシア×政治]マレーシア総選挙の日程が確定、注目される若い有権者たち

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

第15回マレーシア総選挙が2022年11月19日に確定し、222の下院議席が争われる。前回選挙から約4年半ぶりとなる。2018年総選挙では同国史上初の政権交代が起こり、マレーシア政治をみるポイントは大きく変化した。

過去は、統一マレー国民組織(UMNO: United Malays National Organization)を中心として、各民族や地方を基盤とする10以上の政党が連合を形成していた国民戦線(BN: Barisan Nasional)が、議席全体の3分2から約8割を獲得し続けていた。

マレーシアウォッチャー的には様々な論点があるものの、大雑把には、政権党BNに対して、野党が個別に、時には連合を組んで戦うが、なかなか勝てないという状況が続いていた。しかし、2018年総選挙を起点としてガラッと変わった。

今回は、複数の政党連合を中心に選挙戦が行われる。政府・与党はBNが41議席、国民同盟(PN: Pakatan Nasional)が47議席、サラワク政党連合(GPS: Gabungan Parti Sarawak)が19議席と、3つの政党連合が中心となっている。

BNの中核は、イスマイルサブリ首相が所属するマレー系のUMNOである。PNは、ムヒディン前首相が率いるマレー系政党のマレーシア統一プリブミ(PPBM: Parti Pribumi Bersatu Malaysia)や老舗のイスラム党などで構成されている政党連合である。その他の政党も加えて、連合与党は222議席中116議席を有して、かろうじて政権を運営している状況である。そのため、小規模政党がキングメーカーとなる可能性もある。

これに対し、野党は90議席の希望連合(PH: Pakatan Harapan)が中心だ。最大政党は華人系やインド系を中心とした民主行動党(DAP: Democratic Action Party)が42議席、マレー系中心ではあるが多民族政党で36議席を持つ人民正義党(PKR)が主な勢力である。97歳で出馬表明をしたマハティール元首相は、紆余曲折があり、新党を立ち上げて祖国闘士党(Pejuang)という小政党に所属している。

今回の総選挙は与党連合の勝利と見る向きが強いが、過去に比べるとプレーヤーが小規模かつ複数のため、予見しがたい部分もある。与党の中ではPPBMが苦戦するとみられている。連合野党は求心力の低下が見られ、以前から考え方に溝のあるDAPとPKRが円滑に連携できるか不安要素がある。

また、投票年齢引き下げの影響も注目される。前回までは21歳以上で有権者として登録した国民が投票できたが、2019年の憲法改正によって18歳以上の国民が自動的に有権者登録されるようになった。有権者が約780万人も増え、人口3300万人規模のマレーシアにとって大きい。若年層の投票行動も選挙結果を左右しそうだ。

マレーシア下院勢力

出所)マレーシア下院ホームページ、各種報道より筆者作成。写真はWikimediaCommonsより転載


*2022年10月24日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。




この記事を書いた人

SingaLife編集部

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