【大人の社会科見学】
シンガポールで楽しむイベントその324
-シンガポールの朝食定番カヤトースト:その魅力と歴史を紐解く-

シンガポールを訪れたなら、いや、シンガポールに暮らす人々にとって、カヤトーストは日常に溶け込んだ欠かせない存在です。カリッと焼き上げられたパンに、甘く香ばしい「カヤ」ジャムをたっぷり塗り、再び軽くトーストする。そのシンプルながらも奥深い味わいは、シンガポールの朝の風景を彩る象徴的な一品と言えるでしょう。
マレー半島を中心に愛されるカヤトーストは、マレーシアでも朝食の定番として親しまれています。そのルーツは、マレーシアやシンガポールに移住した海南(かいなん)出身の人々が考案した朝食料理であると言われています。
2枚のトーストにバターとカヤ(ココナッツジャム)を塗り、濃厚なコーヒーや半熟のゆで卵と一緒に味わうのが一般的で、「コピ ティアム(喫茶店)」文化に深く根ざしています。

カヤトーストの発祥には諸説ありますが、興味深い説の一つに、中国の海南からの移民がイギリス船に乗船した際のエピソードがあります。イギリス人がパンにフルーツジャムを塗って食べているのを見た海南人が、それをヒントにアレンジしたのがカヤトーストであるという説です。異文化との出会いから生まれた食文化、その背景を知るだけでもカヤトーストへの興味が深まります。
カヤトーストが広く知られるようになったのは、シンガポール政府観光局(STB)がストリートフードやホーカーフードを積極的に紹介するようになったことが大きなきっかけです。
特に、1994年から始まった「Singaporean Food Festival」は、伝統的な食文化をPRする一大イベントとして1か月間開催され、毎年恒例となりました。2004年には、シンガポール政府観光局の「Uniquely Singapore Shop & Eat Tours」でカヤトーストが紹介され、地元のローカルフードの象徴としての地位を確立しました。

カヤトーストの調理法は、時代とともに変化してきました。以前は伝統的な炭火焼きでパンを焼いていたものが、トースターが普及したり、店員が自家製パンを使っていたのが工場で大量生産されたパンを使うようになったりといった変化が見られます。
しかし、カヤトーストの最も重要な要素であるカヤジャムの製法は、大きく変わっていません。「Yak Kun Kaya Toast」や「Killiney Kopitiam」といった有名なチェーン店でも、カヤジャムは今もなお伝統的なレシピで作られています。
カヤトーストは、1枚にバターを塗ってサンドイッチのようにし、コーヒーと水気の多い半熟卵2個を添え、濃口醤油と白胡椒をかけて食べるのが一般的です。
ホーカーセンターで朝食時にカヤトーストを注文すると、なぜかシンガポール社会と一体化したような、不思議な感覚に包まれます。異国の地での朝食体験を通して、その国への理解が深まることはよくありますが、カヤトーストはまさにその象徴と言えるでしょう。
南洋の国での朝食シーンを、ぜひ週に一度は体験してみてください。きっと、シンガポールという国の魅力がさらに深く理解できるはずです。
◆大人の社会科見学 筆者
森山 正明 大人の社会科見学シンガポール版は、シンガポールで生活している方々へ、シンガポールの奥深さを知ってもらいたい思いで活動を始めました。「3か月も住んでいればシンガポールは飽きてしまう」と巷では言われますが、なかなかどうして、この地ならではの楽しみは、尽きることはありません。 2013年11月からこのサークル活動を始めて約11年。行ったイベントは、200回を超え、その中から読者の方にもシンガポールの文化や習俗について年中行事を軸に紹介をして参ります。 ●大人の社会科見学の電子書籍版完成! 詳細はこちらから |
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!