シンガポールの公用語4つを解説!【割合、背景、シーン別】
1965年に建国されたシンガポール。建国当初から多民族国家であり、公用語が4つもあることをご存知でしたか?公用語が複数あるということは、全ての言語がわからないと生活できないのでしょうか?
今回は、シンガポールで使われている公用語について、各言語の特徴と公用語になった背景、そしてシーン別の使われ方をご紹介します!
シンガポールの公用語は「英中マタ」
シンガポールの公用語(official language)は憲法により、英語・中国語・マレー語・タミル語の4言語と規定されています。まずはそれぞれの言語の特徴を説明しましょう。
公用語①:英語
シンガポールで最も広く使われている言語。英語でシンガポールを表記すると「Republic of Singapore」となります。かつての宗主国であるイギリス英語がベースです。
英語が普及した背景には、異なる文化を持つ民族同士が容易にコミュニケーションできるようにして、国としての統一を図りたかったという事情があります。また、様々な分野でグローバルにコミュニケーションできることで、シンガポールの経済的発展にもつなげたいという考えもあったことでしょう。
ところでみなさんは、「シングリッシュ(Singlish)」という言語を聞いたことがありますか?これは、多種多様な言語が話されるシンガポールで独自に生まれた英語の変種のことです。
例えば「Die Die Must Try!(ダイ・ダイ・マスト・トライ:絶対に試したほうがいいよ!)」や、文末に「lah(ラ)」をつけるなどの特徴があります。ただしシングリッシュはあくまでもフランクな言葉。仕事のお得意先や上司へのメールでは、書かないほうが無難でしょう。
公用語②:中国語
中国語でシンガポールは「新加坡共和国」と書きます。
中国系シンガポール人の多くは、中国南部の福建省や広東省から移住して来ました。そのため中国語の標準語である北京語(普通語)のみならず、彼らの祖先の方言(福建語や広東語)も中国系の人々は自らのアイデンティティとして大切にしているのです。
しかし近年は英語の普及に伴い、シンガポールでの中国語の使用割合は減少傾向にあります。シンガポール政府は、中国の文化や伝統につながる主要な言語として中国語の普及を進めていますが、どうなるでしょうか。
公用語③:マレー語
シンガポールをマレー語で書くと「Republik Singapura」。
1819年にイギリス人が東インド会社の交易所を設置するまではシンガポールの国語として扱われていました。現在のシンガポールの国歌である「Majulah Singapura(進めシンガポール)」も、マレー語で書かれています。
シンガポール憲法により、マレー人がシンガポールの先住民であると規定されており、彼らの言語を始めとする文化を保護することが政府の義務と定められています。その一環で、マレー語は公用語の中でも、さらに特別な「国語(national language)」として定められています。
公用語④:タミル語
タミル語でシンガポールは「சிங்கப்பூர் குடியரசு」と書かれます。
2020年の推計では、シンガポールの人口の9%がインド系とされており、その多くがタミル語を母語としています。というのも、これらインド系住民の多くがインド南東部のタミル・ナードゥ州から移住してきたから。この辺りの背景は、前述の中国系住民と似ていますね。
このほかにも、ヒンディー語やグジャラート語などの少数言語も話されています。
公用語が4つになった理由
シンガポールの公用語は4つあるのですが、それぞれが同じ割合で使われているわけではありません。まずは各言語の使用割合の表をご覧ください。
言語 | 割合(%) |
英語 | 48.3 |
中国語(普通語+各方言) | 38.6 |
マレー語 | 9.2 |
タミル語 | 2.5 |
その他 | 1.4 |
(CIA World Factbookによる2020年の推計)
英語と中国語で85%以上を占めています。なぜこのように使用割合がアンバランスな言語が公用語に選ばれたのでしょうか。この背景には、シンガポールの歴史があります。
地理的条件に恵まれたシンガポールは軍事的および貿易の要衝として、アジアを始めとする多種多様な地域から人々を長年に渡り引きつけてきました。
第二次大戦後、イギリスによる植民地支配が続きましたが、1963年にマレーシア連邦の一部として独立。しかし中国系住民が多く、同国の先進地域でもあったシンガポールは、他の地域との意見対立が激化していきます。
この「中国系住民が多い」という状況は現在でも変わっていません。こちらの民族割合の表をご覧ください。
民族 | 割合(%) |
中国系 | 74.3 |
マレー系 | 13.5 |
インド系 | 9 |
その他 | 3.2 |
(CIA World Factbookによる2020年の推計)
マレー半島にある国でありながら、中国系住民の割合が圧倒的に多いことがわかります。
中国系住民が過半数を占めるシンガポールと、マレー系住民が多いそれ以外の地域。両者による話し合いの結果、わずか2年後の1965年にシンガポールは主権国家としてマレーシア連邦から独立したのでした。
このような歴史を持つシンガポール。英語はかつての宗主国の言葉ですが、同時に世界中で使われている言葉であり経済発展に不可欠です。そのため公用語の一つに定めたのでしょう。
またシンガポールの総人口に占める移民の割合が、40%以上と非常に高いことも見逃せません。彼らとの共通言語を定めるという側面もあるのではないでしょうか(比較のために書くと、日本に住む総在留外国人数の総人口に占める割合は約2%です)。
英語が公用語に選ばれた理由に実利的側面が強い反面、他の三言語はシンガポールの三大民族への配慮という側面が強いように思われます。言語は民族のアイデンティティと深く関わっているもの。異なる文化を持つ各民族を尊重する意味で、中国語およびマレー語、タミル語も公用語と定めたのでしょう。
以上のように公用語が4つある背景には、シンガポールの「経済の中心地」および「多民族国家」という歴史があるのです。
シンガポール人は、みんなバイリンガル?
多言語国家であるシンガポールでは、やはり国民はみなさんバイリンガル(二言語話者)なのでしょうか?
若い世代の人たちはほとんどが、英語と自身の民族の母語の2言語を話すバイリンガルです。ただし一昔前の世代は少し違っていました。
3つ以上の言語を使用するマルチリンガルの人が多かったそうです。新しい国の制度をつくりあげる過程で、複数の民族とコミュニケーションを取る必要性があったからではないでしょうか。
使用言語の減少と同時に、英語以外の言語の習熟度も徐々に低下してきているのだとか。学生時代には2言語での学習が求められるのですが、大学に入学したり卒業して社会人になったりすると英語以外の言語を使わなくなってしまうのです。
その結果、英語以外の公用語であるマレー語、タミール語、中国語の地位が低下しているのだとか。そしてこの傾向は今後はますます顕著になると見られています。
また、話者人口が多い英語も中国語も話せない高齢者が社会的に阻害されているという問題もあるそうです。
シーン別公用語の使われ方【家庭から学校まで】
シーン①:家庭
シンガポール統計局が2021年6月に発表したデータによると、家庭で英語を一番使う家庭の割合が増加しているそうです。
2020年の統計では、5歳以上の国民の48.3%が家庭で英語を最も話していることが明らかになりました。これは10年前よりも15%以上も増加しています。ただし約87%の国民が中国語などの他の言語も話すバイリンガル環境だとしています。
ちなみに、中国語を一番話すと答えた国民は29.9%、マレー語が9.2%、タミル語が2.5%で、いずれも10年前の数値よりも低下しています。
このことから、家庭環境における英語の重要性がますます増していることがみてとれます。
シーン②:学校
シンガポールの学校では各教科の授業は英語で行われており、生徒は第二言語として他の3つの公用語のいずれかを学ぶことが義務付けられています。もし希望すれば、第三言語も履修可能です。
学校でもビジネスでも使われている英語も大事ですが、民族のアイデンティティを継承するという意味で英語以外の言語をどの程度重視するかが長年の問題となっています。
政府も英語以外の母語を使用することを奨励しているのですが、前述の通り英語をもっぱら用いる過程は今後しばらくは減少しそうにありません。
シーン③:役所
シンガポールの国語はマレー語ですが、憲法を始めとする行政文章は英語で書かれています。また、省庁や政府の建物には英語の表示が多く用いられています。普及している英語で表記した方が、より多くの国民に理解してもらえるということなのでしょう。
そのため、万が一シンガポールの役所に用事ができた場合でも、英語が読めれば行政サービスを受けられる可能性が高いといえます。
シーン④:観光スポット
シンガポールの観光スポットの多くには、英語による案内表示がされています。道路にある観光客用の茶色の道路標識には、最大で4つか5つの言語で書かれていますが、英語が一番目立つようになっています。
シンガポールに行くなら、まずは英語でOK!
今回の記事では、シンガポールで使われている公用語について、各言語の特徴や使われている背景、およびシーン別の公用語の使われ方をご紹介しました。
学校で必ず学ばれる言語なので、シンガポールを訪れる際は、まずは英語が話せれば大丈夫でしょう。もしも余裕が出てきたら、シングリッシュやその他の公用語も話して、現地の人ともっと仲良くなるのも良いですね!
※この記事は執筆時の情報に基づいています。
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!