〜シンガポールにおける賃貸に関する法律問題〜 -Vanilla Law 法律事務所 Vol3-

衣・食・住というのは、人間が日常生活を行なっていく上での、必要事項です。その要素の一つである「住」についても、皆様にとって身近な法律問題であるとともに、対象となる金額が高額ともなりうる法律問題と言えるでしょう。

コロナ禍以降、異常な高騰を見せているシンガポールの家賃事情を踏まえ、今回は、紛争を事前に賢く回避する方法、紛争となった場合に利用できる紛争解決手段について、検討していきます。


1.入居時に行うべきことはありますか。

入居したらまず、テナント物件を隅から隅まで確認し、汚れや欠損のある箇所についての写真をすべて撮っておきましょう。また、これらの写真は、大家もしくはエージェントに送り、入居時の欠陥をシェアしておくことで、後に、争いとなった場合の重要な証拠となります。

また賃貸物件に隠れた瑕疵があった場合、通常、賃貸開始から1カ月間は無料で修理など行えるという条項が記載されている場合が多いです。この期間を超えての修理費用は、例えば、電気やガスに設置されているバッテリーが十分な容量があるかどうか、新しいものに交換されているかどうかなども、確認事項とされると良いでしょう。

実は、筆者も、入居1カ月を経過してすぐのころに、ガス台のバッテリーの充電が切れたため、大家にバッテリーの交換を申し入れたところ、「その型のバッテリーはもう市販されていないので、ガス台全体を変更する必要がある。しかし無料での修繕期間1カ月は経過しているため、費用はテナント持ちで。」との返答があり、想定以上の費用がかかるということとなり、揉めたという苦い思い出が。

入居前に、バッテリーを新しいものに交換しておいてください、とのリクエストを入れておかなかったことをひどく後悔しました。もちろん、大家が上記リクエストに応えてくれるかどうかは、大家次第ではありますが、入れられるリクエストはできる限り、言ってみると良いかと存じます。


2.余っている部屋があるので、友人に貸したいのですが、大丈夫でしょうか。

シンガポールの家賃は非常に高額ですので、部屋が余っているような場合、第三者と一緒に住んで家賃を折半した方が得だしな、などと思われるかもしませんね。

しかし、通常、賃貸借契約書には、契約に明記されている人以外の者(第三者)との同居、第三者への転貸を禁止するという条項が明記されております。大家側としては、契約当事者以外の素性のわからない人が、勝手に住んでしまうというのは、あまり心地の良いものではありませんので、当然の契約内容かと考えます。

もっとも、大家の同意があれば、上記第三者との同居や、転貸が可能な場合があります。後の紛争を避けるためには、勝手に第三者を同居させたり、第三者に貸してしまうのではなく、必ず大家に申し出の上、許可をとるようにしましょう。


3.契約内容に違反した場合は、どうなりますか?

家賃の未払い、勝手に第三者を住まわせた等の契約内容に関する違反があった場合は、大家は、テナントに対し、契約違反を理由に訴訟を起こされ、退去をせまられる場合がありますので、くれぐれも契約内容には違反しないようにしましょう。


4.急にシンガポール国外への転勤が決まってしまいました。まだ賃貸借契約が残っているのですが、どうしたらいいでしょうか。

シンガポールにいる多くの駐在員の皆様は、シンガポールの駐在期間が不明確ですので、急に日本への帰任や、その他国外への転勤が決まることがあるのは、駐在員の宿命ですね。例えば2年間の賃貸借契約を結んでいて、入居後6カ月で異動が決まってしまった場合、契約期間終了までの家賃を支払わなければならないと言ったことになるのでしょうか。

賃貸借契約を契約期間満了前に終了するためには、「Diplomatic Clause」(契約途中でのシンガポール国外への異動・転勤等があった場合の処理に関する条項、シンガポールにおける駐在員を対象とした条項)があるかどうかが鍵となってきます。

テナントが日本人である場合は、必ずこの条項が記載された契約書のドラフトが、エージェントもしくは大家から送られてくるのが通常ですが、念のため、このDiplomatic Clauseが入っているかは、必ず確認するようにしましょう。Diplomatic Clauseは、12 カ月を超える賃貸借に適用されます。

Diplomatic Clause内にて、最低居住期間が規定されていたり、転勤・異動に関する証明書の提出が求めらることが通常です。

この転勤を証明する書類とは、会社からの転勤・異動の辞令などで足りる場合もありますが、会社からの辞令だけでは本当に転勤をするのかの証明として不十分と考える大家の場合は、Employment Pass(EP)をキャンセルしたというような、より公的な証明書が提出を要求する場合もありますので、どう言った書類を提出する必要があるかは、事前に大家に確認することをおすすめいたします。

EPをキャンセルしても、キャンセルと同時にSTVPを発行してもらえば90日間はシンガポールに滞在できますので、それらの日数を勘案して、どのタイミングで賃貸借契約を終了の申し入れをするのがベストか、計画的に進められると良いかと思います。


5.退去時に、想定外に高額なクリーニング代・修繕費を請求されてしまいました。支払うべきなのでしょうか。

退去時の、修繕費、クリーニング費用を想定以上に請求されてしまうというのは、賃貸借契約において頻繁に問題となります。

大家は、クリーニング費用・修繕費用を敷金から充当する権利がありますので、敷金の大部分が返還されない、という自体となってしまったということも、少なくはありません。賃貸借契約にて、最も揉める事情と言っても過言ではないでしょう。まず、退去時のクリーニング・修繕等が必要な部分に関する検査に関しては、慎重に行う必要があります。

賃貸借契約書にこの検査に関する方法が詳細に記載されていれば、その方法に従えば問題はありません。記載がなければ、大家や権限のあるエージェント立ち合いの元、一緒に確認を行い、必ずメモや写真などの記録を残すようにしましょう。後でいわれのない費用の請求を避けるためには、この「記録をとる」「記録を共有する」ということは非常に重要です。

これら思った以上に高額な費用が請求された場合には、まずは、エージェントや大家とやりとりし、記録にのっとって、自分にはそれらの費用を負担する義務はないということをやりとりするのが良いでしょう。

もっとも、エージェントも、結局は自分の責任の範囲ではないないということで、親身にやりとりを行ったり、大家と仲介してくれることはあまり期待できません。また、やりとりを行っていた大家から、全く返信がこなくなる、などといった状況になってしまうこともしばしば。

こうなってしまっては、もう話し合いどころではありませんね。


6.もはや、話し合いでは解決できそうにありません。どのような紛争解決手段がありますか。

上記の通り、話し合いでは解決できないということとなってしまった場合、どのような手段がありえるかを検討していきましょう。

まず、弁護士を介して、請求されている修繕費、クリーニング費用の負担の義務はないこと、敷金を変換すべきというレターを送付するなども一つの手段です。この弁護士からのレターを送付した場合、先方から返信がないということはないでしょう。

もっとも、義務を免れる費用と弁護士費用を勘案した場合、裁判費用等の弁護士費用の出費を考えると、結局、費用倒れとなってしまうのが現実ではないでしょうか。

そこで、おすすめできる手段は、少額訴訟裁判手続(Small Claims Tribunals)で家主に対して請求を行う方法です。 この少額訴訟裁判手続は、弁護士をつけることができない手続(本人が行う手続)となっておりますので、弁護士費用はかからないということとなります。

この少額訴訟裁判手続は、請求金額が20,000ドルを超えないもの、かつ賃貸借契約期間が2年以下の場合が対象となります。大家が同意すれば、請求額の上限を30,000ドルまで増額することも可能です。

とはいっても、英語で書類を作ったり、裁判所における手続を行うというのは、非常にハードルの高いものかと思います。その場合、書面作成に関するアドバイスのみ、また手続への通訳としての同伴のみ、費用を大きく抑えることができます。

専門家の見地から、事実関係をまとめるという点について、弁護士に相談するのも非常に有用と考えますので、実際に少額訴訟裁判などの作業は自分で行うが、まずはどうやって事実関係を整理したらいいのか、その後どのように動いたらいいかを詳細に検討したいという場合に、弁護士に相談すると良いでしょう。

また、別に利用を検討できる機関として、Community Mediation Center(CMC)があります。このCMCは、シンガポールにあるメディエーションセンターの中で、一番安価に利用できるメディエーションセンターと言えるでしょう。(1件につきS$5、2023年10月時点)

対象とする事案が、この大家とテナント間の紛争、近隣住民や同僚との揉め事等、日常生活に根付いた問題を対象としています。こちらも弁護士の同席はできませんが、通訳を同伴することは可能です。また、通常1日での解決が期待できる手続ですので、利用を検討されてみるのも良いかと存じます。

この場合も、まずは、事実関係を整理するということで、事前に専門家に相談するのは非常に有用でしょう。
CMC :https://cmc.mlaw.gov.sg/apply-for-mediation/disputes-suitable-for-mediation/

*本稿は、個別に法的アドバイスを行うものではございません。個別の法律問題につきましては、別途専門家にご相談ください。

監修:Vanilla Law LLC

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この記事を書いた人

SingaLife編集部

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