【大人の社会科見学】
シンガポールで楽しむイベントその313
-言葉の交差点に見るシンガポールの多文化主義-

シンガポールを訪れると、街の至るところで耳に飛び込んでくる多言語の響きに驚かされます。英語、中国語、マレー語、タミル語という4つの公用語が、国の公式表記や看板、公共交通機関のアナウンスに至るまで、あらゆる場面で共存しています。この多言語主義は、多民族国家ならではの独創的な文化的融合を映し出し、シンガポールの社会統合の象徴として機能しています。
1965年の独立以降、シンガポール政府は言語を国家戦略の中心に据え、英語を国際社会における競争力の源泉として採用しました。英語は、ビジネス、教育、行政の共通言語として、国民にとって生活の基盤であると同時に、グローバルな舞台へ羽ばたく鍵でもあります。しかし、シンガポールが特筆すべきは、この英語偏重の一方で、各民族の母語教育を通じて文化的アイデンティティの維持にも注力している点です。
すべての学生が英語と母語を学ぶ二言語教育政策は、この国の言語戦略の中核です。2020年の国勢調査によると、家庭で最も話される言語は英語が約48%、続いて標準中国語が約30%。このデータは、英語を中心とした国家戦略の成功を示すと同時に、シンガポールが多様性と統一性を見事に両立させていることを物語っています。


シンガポールの多言語社会を語る上で欠かせないのが「シングリッシュ」の存在です。この英語の変種は、文法的には標準英語と異なり、ローカルの中国語やマレー語の影響を強く受けています。一見すると混沌としたように思えるこの言語形態は、シンガポール人にとって強い文化的アイデンティティの象徴です。日常会話では、英語と中国語が自在に交じり合い、多民族社会ならではの柔軟性と創造性を示しています。
また、マレー語が国語として指定されている背景には、近隣諸国との歴史的・政治的関係が深く関わっています。国歌や軍事儀礼で使用されるマレー語は、シンガポールが地域の一員であることを意識した象徴的な存在です。この選択は、単なる言語の問題を超え、地域的配慮と国家アイデンティティのバランスを追求した結果と言えるでしょう。
さらに、福建語や潮州語といった伝統的な中国方言の使用が減少している一方で、標準中国語と英語への集約は意図的な政策の一環です。各民族のルーツを尊重しつつ、国家としての統一を目指すこの戦略は、多文化共生社会における優れたモデルとなっています。


シンガポールの言語政策は、多様性を尊重しながら統一性を保つという課題への洗練された答えではないでしょうか。言語は単なる伝達手段ではなく、国家のアイデンティティを形成する生きた文化装置です。この都市国家は、グローバル社会における言語共生の可能性を示す希望のモデルとして、世界の注目を集め続けています。訪れる人々にとって、その多言語の景観は、多文化主義の力強さと調和の美しさを教えてくれます。シンガポール社会をより深く知るうえで、ぜひ皆さんもシンガポールのさまざまな言語に触れてみてはいかがでしょうか。
◆大人の社会科見学 筆者
森山 正明 大人の社会科見学シンガポール版は、シンガポールで生活している方々へ、シンガポールの奥深さを知ってもらいたい思いで活動を始めました。「3か月も住んでいればシンガポールは飽きてしまう」と巷では言われますが、なかなかどうして、この地ならではの楽しみは、尽きることはありません。 2013年11月からこのサークル活動を始めて約11年。行ったイベントは、200回を超え、その中から読者の方にもシンガポールの文化や習俗について年中行事を軸に紹介をして参ります。 ●大人の社会科見学の電子書籍版完成! 詳細はこちらから |
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!