【大人の社会科見学】
シンガポールで楽しむイベントその338
-シンガポールの“食”の象徴 歴史と現在をつなぐラオパサ-

シンガポールを訪れたことがある方なら、一度は名前を耳にしたことがあるのが「ラオパサ(Lau Pa Sat)」です。高層ビルが林立する金融街の中心に位置し、朝から晩まで地元の人々や観光客で賑わうラオパサは、シンガポールを代表するホーカーセンター(屋台村)として長い歴史を誇ります。今回は、その魅力と背景についてご紹介します。

ラオパサとは?

ラオパサは、福建語で「古い市場(Old Market)」を意味します。その名の通り、創建は19世紀初頭にさかのぼります。最初は小さな市場でしたが、1894年に現在の場所へ移転し、ヴィクトリア朝様式の鉄骨造りの建物として新たに生まれ変わりました。この建物は現在、シンガポールの国家遺産(National Monument)に指定されており、レトロで優美なアーケード天井が特徴です。現代的な摩天楼群の中で、まるで時が止まったかのような雰囲気を醸し出しています。

歴史に支えられた進化

シンガポールの屋台文化は、19世紀に世界各地から移民が流入したことにより生まれました。各民族が自慢の料理を路上や市場で提供したのがホーカー文化の始まりです。しかし、都市の発展とともに衛生や交通の課題が顕在化し、1970年代から政府が屋台の整理・統合を進めました。こうして誕生したのが「ホーカーセンター」であり、ラオパサはその代表的存在の一つです。

ラオパサの建物は長い年月の中で何度も改修・リニューアルを経ていますが、伝統と革新が見事に融合しています。昼間は開放的な空間にさまざまな屋台が並び、夜になると周囲の道路が「サテー通り(Satay Street)」へと変わり、炭火の香りが漂います。過去と現在のライフスタイルが自然に共存する光景こそ、ラオパサの最大の魅力といえるでしょう。



ラオパサの特徴

ホーカーセンターとしてのラオパサの最大の特徴は、多国籍・多文化な料理のラインナップです。海南チキンライス、ラクサ、ホッケンミーといったシンガポールの定番料理をはじめ、中華、インド、マレー、タイ、ベトナム、西洋料理まで、世界各地の味が集結しています。ランチタイムはオフィスワーカー、夜は観光客など、多様な人々に親しまれている点も特徴です。

ラオパサは現在、民間事業者(SATS Food Services)によって運営されており、政府機関であるNational Environment Agency(NEA)の監督下にあります。屋台の出店基準、メニュー、価格、営業時間などは厳しく管理され、衛生基準も高水準に保たれています。各店舗には衛生等級が明示され、建物全体も常に清潔に維持されています。


フードコートやコピティアムとの違い

ホーカーセンター(公営・地域型)、フードコート(商業施設内)、コピティアム(個人経営の小規模食堂)はしばしば混同されますが、ラオパサは公共性の高い施設として位置づけられています。地域住民の生活を支えつつ、観光客にローカル文化を体感させる重要な役割を担っています。

世界遺産への登録と誇り

2019年、シンガポール政府はホーカー文化をユネスコ無形文化遺産に申請し、2020年に正式に登録されました。ラオパサのような歴史的ホーカーセンターは、「多民族・多文化の共生」「公共の食の場」「衛生と秩序」という価値を体現しており、世界的にも高く評価されています。一方で、隣国マレーシアとの間で文化起源をめぐる論争も起こり、話題を呼びました。こうした議論もまた、ホーカー文化が両国にとって誇りであることを示しています。


まとめ

ラオパサは、歴史的建築、美食、多民族文化、そして高度な衛生管理が融合したシンガポールの象徴です。地元の人々と観光客が肩を並べて食事を楽しみ、朝から深夜まで活気に満ちています。シンガポール生活の彩りをさらに深めるために、ぜひこの歴史あるホーカーセンターで多彩な味と文化、そして人々の温かさに触れてみてください。ラオパサは、シンガポールの過去と現在、そして未来が交わる場所です。


大人の社会科見学 筆者

森山 正明
大人の社会科見学シンガポール版は、シンガポールで生活している方々へ、シンガポールの奥深さを知ってもらいたい思いで活動を始めました。「3か月も住んでいればシンガポールは飽きてしまう」と巷では言われますが、なかなかどうして、この地ならではの楽しみは、尽きることはありません。

2013年11月からこのサークル活動を始めて約11年。行ったイベントは、200回を超え、その中から読者の方にもシンガポールの文化や習俗について年中行事を軸に紹介をして参ります。
 
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●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。


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第331回~
🌎337 -シンガポールを支える“食”の原点――ホーカーセンターのすべて-
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この記事を書いた人

SingaLife編集部

シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!

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