【東南アジア×治安】9.11事件、その日の記憶。安全を振り返る契機に

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

米国同時多発テロ事件、いわゆる9.11事件が2001年に発生してから20年が経った。あの日に自分がどこで何をしていたかを、覚えている人も少なくないだろう。

筆者は、2001年9月11日は、大学の先輩でもある日本人マレーシア研究者とともにマレーシアの東海岸を調査目的で訪問し、イスラーム色の強いトレンガヌ州の州都クアラ・トレンガヌに滞在していた。

夕食をとりつつ一日の調査の振り返りを済ませて、ホテルのそれぞれの部屋に戻り、くつろいでいると、先輩から電話が入り「今、アメリカがすごいことになっているぞ」と言われ、先輩の部屋に向かった。目に飛び込んできたのはワールドトレードセンターに飛行機が突っ込むテレビニュースだった。本当に起こっているとは信じがたく、映画の一場面かと思うほど我が目を疑った。

9.11事件を受けて世界は「テロとの戦い」に入り、イスラーム=過激という大きな誤解が生まれたり、イスラーム・フォビア(嫌イスラーム感情)も広がったりする地域もあった。筆者が住んでいたマレーシアでは、政府が「進歩的イスラーム」というスローガンを掲げ、暴力を容認する考えは本来のイスラームではないとし、非イスラーム圏との対話を推進した。

筆者のキャリア形成においても9.11事件は影響し、テロ対策とインテリジェンス、イスラーム研究は一つの柱となり、その後の政治経済分析やリスクコンサルティングにもつながっていった。

当地シンガポールでは建国以降、過激派による無差別テロは一度も起こっていない。ただ、過激派の逮捕は時折あり、バリ島爆弾テロなど複数の大事件を起こしたジャマ・イスラミーアの幹部にもシンガポール人マス・スラマット・カスタリという人物がおり、2006年にシンガポールの国内治安法に基づいて拘束された。

他の東南アジア諸国では、テロ事件やテロ未遂が発生したことがある。最近でこそ、テロ事件は少ないが、9.11事件から20周年を機に、治安や身の安全を振り返る契機としたいものだ。

東南アジアで発生した主なテロ事件

出所)公安調査庁「主な邦人被害テロ事件」、各国報道より筆者作製

*2021年9月13日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。



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この記事を書いた人

SingaLife編集部