【中国自動車メーカー×東南アジア】中国の民間最大手自動車メーカー、長城汽車がタイでEV販売開始
※写真はイメージです
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
中国自動車メーカーである長城汽車は11月1日、タイでEV(電気自動車)の発売を開始した。長城汽車は、1984年に設立された中国初の民間自動車メーカーである。
今、中国ではEVの販売台数が伸びている。2021年1月から9月の自動車販売台数は、前年同期比でプラス8.7%の1862万台であり、このうちEVは215万台と前年同期比では実に185.3%も急増している。市場全体に占めるEVの割合はまだ1割強であるが、伸び率を見ると、今後のけん引役となることは確かだ。
長城汽車は国内と同時に海外の成長市場を取り入れていくという戦略を描いているとみられる。タイは主に日本の自動車・同部品メーカーがサプライチェーンを構築済みだ。消費サイドでも、タイの7千万人という人口と、一人当たりGDPが7189米ドルという水準は今後の成長を取り込む市場としては理想的だ。
長城汽車は中国最大の民間自動車メーカーであり、収益全体のうち3分の1ほどは海外向けが占めている。ただ、EVについてはタイが初の海外進出となる。今回、販売が始まった小型EV「欧拉好猫(オラ・グッドキャット)」は、中国で生産した完成車を輸入するため、価格は98万9000バーツ(約340万円)からと、安くはない。
2023年の現地生産開始までは、所得が高く、EVなど新しい技術への関心が高いタイ人をターゲットとした、テストマーケティング的な側面が強いだろう。長城汽車は、2020年に米国GMのタイ工場を買収しており、EV生産にも活用する予定だ。
近年、東南アジアでは長城汽車以外にも、マレーシアのプロトンを実質的に傘下に収めた吉利汽車があり、上海汽車は買収したMG(元は英国)を通じてタイに進出して、現在はEVも販売している。
今回の長城汽車は、中国自動車メーカーの東南アジア進出を加速させる動きだ。もちろん、東南アジアではなじみの薄い中国車ブランドを浸透させることや、EVインフラの整備という課題があるが、中国国内で培った財務上の体力や技術力を背景に今後、東南アジアで結果を残せるか注目だ。
長城汽車の概要
正式名称 长城汽车股份有限公司(長城汽車股份有限公司)
英語表記 Great Wall Motor Company Limited
*2021年11月2日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。
【東南アジア×治安】9.11事件、その日の記憶。安全を振り返る契機に
【ノルウェー・テレノール×アジア事業】北欧通信会社の雄テレノールが賭ける東南・南アジア事業
【マレーシア×政治】マレーシアで紆余曲折を経て新首相が誕生。経済・ビジネスへの影響は最小限か
【シンガポール×ムーンケーキ】ムーンケーキの商戦始まる。時代に合わせて変わる商品
【中国×外交】中国が世界に貸し出すパンダ。その背景にある外交的な思惑
【インドネシア×アフガニスタン】知られざるインドネシアのアフガン難民
【南洋の華人社会×孫文】革命の父、孫文の足跡をシンガポールの晩晴園に訪ねる
【東南アジア×報道の自由】フィリピン人ジャーナリストがノーベル平和賞、ペンの力で強権に対抗
【グローバル×マクロ経済】先進国と中国・インド主導で回復する世界経済、ASEANは2022年から本格回復
この記事を書いた人
SingaLife編集部
シンガポール在住の日本人をはじめ、シンガポールに興味がある日本在住の方々に向けて、シンガポールのニュースやビジネス情報をはじめとする現地の最新情報をお届けします!