【人権×ビジネス】米国政府、通算3社目となるマレーシアゴム手袋企業に禁輸措置

写真:Photo by Mufid Majnun on Unsplash

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

11月4日、米国の税関・国境取締局(CBP)はマレーシアのスマート・グローブ社が製造する使い捨てゴム手袋の輸入を差し止めると発表し、即日有効となった。CBPは今回の措置に踏み切った理由として、そもそも、米国はサプライチェーンにおける非人道的な習慣を排除しようとしており、同社の工場で強制労働が発覚したことを指摘した。

マレーシアのゴム手袋業界は、本件以前にも、CBPから同様の措置を受けたことがある。2020年7月にはトップ・グローブ社、2021年10月にはスーパーマックス社が対象とされ、米国への輸出が不可能となった。

トップ・グローブ社はゴム手袋製造で世界最大手であり、特にインパクトが大きかった。タイミングは、コロナ禍によって医療用や家庭用の手袋需要が急増し、株価も高騰して注目も集まっていた矢先だった。その後、トップ・グローブ社に対する措置は2021年9月には解除されたものの、業績への打撃は免れなかった。

例えば、直近の2021年6-8月期の決算発表では、前四半期の2021年3~5月と比較すると、売上高はほぼ半減し、純利益も7割も減ったことが明らかにされた。業績悪化の背景には、新型コロナウイルスワクチンの普及によってゴム手袋需要が落ち込んだこともあるが、CBPの措置も影響している。前四半期比で、北米向け販売量は約4割減となった。欧州向けも35%減、日本向けも55%減となり、大きな打撃を受けた。

今回、新たに禁輸措置を受けたスマート・グローブ社も米国市場は大きく、売上高の約2割を占めているため、業績への打撃が懸念される。

マレーシアの製造業は、外国人労働者で支えられている部分が大きい。ゴム手袋産業もその原料となる天然ゴム産業も例外ではない。昨今は、サプライチェーンにおける人権問題が国際的な注目を受けている。世界最大の経済力を誇る米国による輸入制限が課せられることは、多くの企業にとって重大な問題となるだろう。日本企業も自社だけではなく、買収先や出資先の人権状況には十分配慮する必要がある。

*2021年11月8日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。



この記事を書いた人

SingaLife編集部